トランプ式分裂政治によるハノイ米朝首脳会談の決裂

エマニュエル・パストリッチ

去る2月28日、ベトナムのハノイで開催された米朝首脳会談の合意文の発表が突然キャンセルになったのは、筆者が記憶する歴史的な出来事の中で最も複雑で矛盾した出来事の一つであった。しかし、決裂直後に行われたドナルド・トランプとマイク・ポンペオの即興的な記者会見は全く複雑ではなかった。記者会見は、メディアを意識した陳腐なショーであり、言い訳以外のどのような話もしたくないというものであった。トランプは、キム・ジョンウン、安倍晋三、習近平、文在寅と結んでいる「深い関係」について話したが、そのような姿は、突然の放送事故によるプログラム空白を埋める努力をする深夜番組のコメディアンのように見えた。しかし、トランプが投げた肯定的な言葉が、世界のあちこちで起こっている災害から人々の目を背けるようにすることは出来なかった。また、キム・ジョンウン委員長と共にした「生産的な時間」に対する甘い言葉も、世界各地で垂直上昇している戦争の危険性を覆い隠すことは出来なかった。

正直に言おう。北朝鮮は世界平和にとって圧倒的な脅威ではなく、むしろ、1951年のサンフランシスコ講和会議で構築された世界秩序が崩壊に向かう過程で、その「粉塵」が比較的安定した状態にある島のような所なのだ。米国はどうなのか? 現在、米国政府は政府としての専門性をすべて失い、問題と政策の分析は急激に私有化され、富が極度に集中し、文化も変質してきている。米国は現在、孤立主義と軍国主義に陥り、どんなことが起きても不思議ではない状態になってきている。これらの構造的変化、制裁緩和に対する連邦議会の強い反発、あるいは個人弁護士のマイケル・コーエンの低俗な証言のために、ハノイでのショーはどのような結果も得られなかった。

しかし、世界はトランプを待ってくれてはいない。核保有国であるインドとパキスタンが戦争の岐路に立っているが、この二つの国が対立する理由の小さくない部分は、中国の影響力を牽制しようとする米国の政治ゲームから来ている。米軍は、いかなる責任も負わないまま中央アジア、中東およびアフリカに介入しており、新たに選出された連邦議会はそこの統制権を喪失したように見える。

南米では、政治的な問題の解決に強制力を動員するという脅迫をするだけでなく、利得のために分別のない反知性主義の風潮を煽り、アマゾンの熱帯雨林を破壊して人類の滅亡を早めようとしているブラジルのジャイール・ボルソナーロのおかげで混乱に陥っている。それと同時に、ネオコンの思想的双子であるエリオット・エイブラムスとジョン・ボルトンは、ベネズエラの政権交代のために昼夜を問わず働いている。彼らはニコラス・マドゥロ政権を崩して、多国籍企業のために石油生産を掌握しようとしている。これに関連したグロテスクな行動の一つは、右翼の上院議員であるマルコ・ルビオが本人のTwitterにリビアの元指導者カダフィの写真を上げたことである。これはマドゥロがずっとアメリカに抵抗するならカダフィと同様に拷問を受け殺されるという暗示であった。

資源掌握を目的とするこれらの陰謀は、石油と石炭財閥であるチャールズ・コッホとアンディ・コッホ兄弟が率いている。彼らはまた、手をつけない方が良いと思われる北朝鮮の金、石炭および他の地下資源を狙っている。これはキム・ジョンウンとの会談においてトランプが話す経済的奇跡が、北朝鮮の人々のためのものではなく、国際投資家のためのものであるということである。北朝鮮との接触はイランとベネズエラで起きている敵対的な行動と切り離せない関係にある。

しかし、これは物語の半分に過ぎない。INF条約(中距離核戦力全廃条約)から米国を脱退させたいジョン・ボルトンの行動は、技術の進歩により1950年代の軍拡競争よりもはるかに危険な軍拡競争を煽っている。その狂気は、イランとの核交渉の一方的な破棄とあいまって、ドイツ、ロシア、中国、アメリカ、トルコ、日本、インド、そしてイランの間の大規模な軍拡競争を煽っており、これは第3次世界大戦につながるかもしれない。これらの全ての国々がそう遠くない将来に核戦力を備える可能性は高い。

キム・ジョンウンと彼の参謀たちは、現在の混乱した情勢についてよく知っているものと思われる。晩餐会でキム・ジョンウンが見せた笑顔の裏には恐怖が見え隠れしていた。ハノイ二次会談は双方が深刻な自己欺瞞を受け入れようとしたことで開くことができたのだ。記者会見においてトランプが習近平に対して放った親切な言葉では、米国防総省が中国との戦争を徹底的に準備しているという事実を隠すことは出来ない。トランプと周辺の人たちが制裁を貿易政策の一環として、戦争の脅威を交渉戦略的に受け入れ始めてからというもの、状況は良くなる兆しが見えない。

より直接的に言えば、文民の統制のない米軍の力をサイコパスの影響下におけば、人類史上で最も大規模な災害になる可能性があるという話である。米国の民主党の反応、そして韓国と日本の保守層の反応は、トランプが国際法を無視し、彼が軍国主義を受け入れてファシスト的基盤を築くことを意図的に無視した批判であった。米国がすべての国が核不拡散条約を守らせることに失敗してから、イランとの核交渉も破棄し、国防省は1兆ドルをかけて新たな核兵器を開発することにした。明らかな条約違反であるが、これに対する言及がタブー視されている。

反知性主義の台頭とメディアの腐敗

米朝首脳会談の背後に隠された政治的意味は簡単ではなかった。今日起こっている地政学的変化は深刻である。各国政府が妥協して私的な利益に基づいて自らを突き動かすにつれて、政治家はますます超富裕層に取り込まれている。私たちの世界を理解するための指針は日々変わっている。

それでもメディアは、多国籍企業や投資銀行を喜ばせるようにこの世界を紹介する役割をしている。メディアは結局のところ、単なるビジネス、企業の広報部の役割を担っている。世界の現状についての知的な探求はなく、ニュースを作るにあたって、道徳的問題は考慮の対象外である。多くの記事は混乱と誤解を煽るだけになっている。会談についてメディアが報じた詳細は、金正恩がハノイまでどのように電車に乗って来たのか、ホテルや外交儀礼の主要な地点において周りの通行がどのように遮断されたのか、ということしかなかった。

メディアは死に、反知性主義の大きな波が米国を席巻し、多くの国はもはや批判的分析が不可能な状況に至った。私たちの世界にどのような危険が潜んでいるのかを考える能力がないのはトランプだけではない。多くの人々がオンラインゲーム、ポルノやソーシャルメディアの中毒になり、どんどん馬鹿になって複雑な問題を理解することができないほど退化してしまっている。

ある意味では、会談の最後に投げねばならなかった重要な質問は、「次の会談はいつ開かれるのか?」ではなく、「多くの団体や機関が現在の真の問題について議論する疎通文化を定着させるにはどうすれば良いのか?」であったのかもしれない。結局、誰かは問わなければならない。ハノイ会談でどんなトピックが取り上げられなかったのか?どのようなことが私たちの時代の本当に重要なトピックであるのか?

世界の富が少数の人々の手に急激に集中している現実は、明らかにトランプとキム・ジョンウンも議論したくない話題であった。朝鮮半島を砂漠化するかもしれない気候変動と規制のない石炭使用の増加による大気汚染も話すことは出来なかったであろう。米国、ロシアの軍需産業を通して多大な利益がもたらされるため、(それが北朝鮮の不安の中心的な原因であったとしても)核戦争と東北アジアにおける軍拡競争の危険性は言及できない。日本、中国、韓国も第一次世界大戦前と同じように、軍備と戦争の脅威は主要な利益源となっている。

首脳会談の焦点は北朝鮮が核兵器をどのように放棄するのかに当てられていた。これは、核兵器の先制的使用禁止さえしないまま、戦争の脅威を与えて続けている米国がつくっている何千もの核兵器に比べるとそれほど大きくない問題である。しかし、この問題は別の首脳会談では解決されないであろう。この問題は、市民の真の懸念が反映された対話があり、科学的分析に基づく国際関係における本当の脅威についての言説が中心になる場合にのみ解決される。このような変革は、政策や行政の変化ではなく、文化そのものの変更を必要とするはずである。

(河中葉のブロック「狂国見聞史」に載った寄稿)

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